推しのイベントに行かなくなったはなし

 わたしの推しは声優だ。
 推しはもともと吹き替えの仕事が多いタイプの声優だったのが、あるホビー系アニメに出演し、私もそこで彼のことを知った。事務所の先輩とのラジオはとても楽しそうで、彼の演技とそのラジオがきっかけで彼をどんどん好きになった。

 

 しかし、なかなかアニメの仕事が決まらない。それでも、少しずつ仕事は増え、それに純粋に喜んだ。彼の声は個性があるほうとは言えないけれど、それでも上手くは言えないが熱いものを秘めていたからこそ、もっとアニメ業界で活躍してほしいと願っていたからだ。

 

 歌がうまいのもホビー系アニメのキャラソンで分かっていたので、なにか歌の仕事をして欲しいとずっと思っていた。それでもなかなか歌の仕事に彼が巡り合うことがなく、少ないキャラソンを大切に、それを何回も何回も再生する。そういう日々を過ごしていたのだ。

 

 事務所のおかげなのか、イベント出演はかなり多かったので、可能な限り参加した。結果、彼に顔を覚えてもらってしまった。なんか、ごめんなさい。
 遠征は、イベントに参加するだけではなく、土地々々の観光も楽しめた。地元の方と会話するなんてこともあって、オタクの遠征にしてはしっかり観光も楽しんでいたほうだと思う。私の周りには同じような考えの友達が多く、イベントの遠征だけれど、旅行として楽しむという気持ちで挑んでいた。

 

 イベント系では王ジャンに大変お世話になった。トークあり、朗読あり、接近戦ありのイベントはヘトヘトになりながら遠征するかいがあったし、何より開催地がどこも好きになった。

 

 そんな日々を過ごしている間に、大きなアニメなどの仕事が増えてきた。ある有名漫画の重要なキャラクターを演じたのも大きかったと思う。知名度が一気に上がった。そのころ、私生活に関することで彼は炎上したが、自分にとっては些細なことだった。夢女子ではなく、ただのいちファンとして「おばかさんだなぁ~」と思った程度だった。

 炎上もしばらくすれば落ち着き、アニメの仕事も一気に増えた。ドラマCDなどもいろいろと発売されたので、BL以外(申し訳ないけれど腐女子ではないので抵抗があり聞けていない)、すべてのCDを購入していた。

 

 そして、ついに彼単独のラジオの配信が決まった。まさかこんな日が来るとは思ってなくて、狂喜乱舞した。しかし、そんな私を見て、友達が忠告してくれた。「小川案件には気をつけろ」と。

 「小川案件」というのは小川Pという人物が扱うコンテンツのことだ。友達の推しも小川案件に関わっていたので、おそらく何かあったのだろうと察したけれど、その時は深くは考えていなかった。

 ラジオが始まってからというもの、小川案件絡みのイベントが一気に増えた。最初は喜んでいた。嬉しい悲鳴という感じで、最初期はすべてのイベントに参加していたのだ。


 そして、ラジオが始まった年に彼は大きなコンテンツに出演する機会がどっと増え、それと同時に人気も一気に上がったのだ。大好きな彼が多くの人に認められている姿には感動したものだし、ただただ「良かったね」と思っていた。昔は好きな声優を聞かれて、彼の名前を出しても「誰?」と言われていたのに、この年からはそれもなくなったのだ。

 人気が出始めてからも、私はこれまでと同様、彼を応援し続けた。CDを書い、アニメを観て、ラジオをきく、そしてイベントに参加する――しかし、あるイベントの内容が起因で、私は彼の出演するイベントに行かなくなってしまった。

 

 その起因となったのは小川Pが絡むイベントだった。内容としては「声優が富士山に登り、その状況を上映する」という「声優って何でもやるんだなぁ」というタイプのイベントだった。しかし、その映像に私は不信感を覚えた。

 どういった部分が私の琴線に触れたのかというと、「彼が富士山に登頂している間、途中の休憩地点で小川Pが簡単なクイズを出し、それに答えられたらお水や糖分を与える。ただし不正解の場合は与えない」というものだ。

 先日、富士山で滑落して亡くなった方もいたのを覚えている方もいるだろう。富士山に登る人は、それこそ山のようにいるが、決して安全な山などではないのだ。

 山というのは進めば進むほど標高が高くなり、空気が薄くなる。山登りなどしない私でもわかる。何度か起こったクイズイベントでは、最初は答えられた彼が次第に答えられなくなる様子が確認できた。顔も苦しそうだった。息も上がっていた。そんななか、簡単なクイズにも答えられなくなった彼をみて、小川Pは笑っていたように感じた(声が入っていたのかもしれない)。

 

 この映像の何が楽しいのか? 笑えるわけがない。
 与えないと言っていても、実際に裏では渡していたかもしれない。それでも、表向きは登山をするには必須とも呼べる「水」や「糖分」を与えないという行為を笑いの種にしているのだ。

 これを出すと思ったとき、誰か何も思わなかったのか。推しもこんな扱いをされて、何も思わなかったのか――そう感じた。炎上したときよりも推しのことを「ばかだ」と思った。事務所もなんとも思わなかったのだろうか。あの事務所のことも大好きなのだが、それでもそこには違和感を感じている。
 この件について、違和感を感じたのは私だけではなかったようで、同じイベントに参加していた友達に思ったことを伝えたことがある。すると、あの映像は確かに変だったと答えてくれた。

 

 それでも彼を応援したい気持ちがあり、しばらくの間、イベントには参加し続けた。小川Pとの関わりとしてもう1つ、ヒドイ事例をあげるとしたら「CD」「音楽活動」「ライブ」の関連がある。
 小川Pにより、彼がアーティストデビューすることが決まった。歌の仕事を望んでいた私や友達は歓喜して、応援することを決めた。特典がほしいので、CDを複数枚購入したこともあった。しかし、その発売速度がかなりはやく感じた。

 

・シングル1st 2015年11月25日
・シングル2nd 2016年4月6日
・ミニアルバム1st 2016年10月5日
・シングル3rd 2017年2月8日
・ミニアルバム2nd 2017年7月5日
・シングル4th 2017年11月8日

 

 半年に1枚のペースで出しており、ミニアルバムもこの短い期間で2枚も出している。さらに言えば、これらのミニアルバムにはシングル曲は収録されていない。すべて新規曲なのだ。この短期間に、かなりの曲を歌った。なおタイアップ曲は1曲もない。
 最初は喜んでいたのだが、これに関しても不信感を抱いた。というのも、タイアップ曲も1曲もなく、知名度が合ってもCDが売れるような状況ではなかったのだ。しかもクオリティとしてはかなり中途半端。歌声は素晴らしいだけに残念だった。

 

 では、なぜこんな短期間にこれだけの曲を出したのか。それについて、確か小川Pがライブかイベントかで語っていた。
 「ライブで披露する曲を作るため」――そのためだけに、これだけの曲が短期間に作られたのだ。そして、実際にライブを2回やり、これらの楽曲が使われた。

 もともと彼の歌声が好きだった私は、この状態が辛く、彼の2回目のライブを最後に、小川Pが絡むイベントはもちろん、ほかのイベントにも足を運ばなくなった。

 

 推しはちょっと抜けているところがある。
 TwitterでエロサイトのURLを間違ってツイートしてしまったり、無断転載だろうアカウントのツイートをリツイートしたり……事務所がもうちょっと指導したほうがいいんじゃないかと思ってしまうレベルだ。そういうところも私は好きだけれど、やっぱり声優としてのお仕事はもっとしっかりしてほしい。いまも彼は小川Pが関わるイベントやラジオに参加し続けている。

 

 イベントに行かなくなっただけで、私はいまも彼を応援している。Twitterでツイートすれば通知がくるようにしているし、CDが出たら購入している。
 先日、諸事情により久しぶりに彼が出演しているイベントに行った。ねずみのあれです。大きな会場で素晴らしい設備のなかで歌う彼は輝いていた。やっぱり大好きだ、と思った瞬間だった。

 

 わたしは今でも彼が大好きだからこそ、もっと成功してほしい。もっと声で活躍してほしい。そう願っているのだ。